ブックレビュー「江部康二の糖質制限革命」14〜Q&Aまとめ2〜

Q&Aの続きです。前回はこちら

Q7:健康産業の教えている糖質制限食は、健康面で安全なのでしょうか?

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A:近年、健康産業にも糖質制限食が導入されることが増えてきています。
例えば、急速に業績を伸ばしてきたあるトレーニングジムがそうです。ここはスポーツトレーニングと並行して低糖質食を実行させるプログラムのようですが、著者の目から見て気になる点をあげてあります。
推奨している食事は糖質を少なく抑えるという点では、糖質制限食と同じです。
大きく異なる点は、①サプリメントを推奨している点②低脂肪である点の2つです。
①サプリメントはQ6でも回答した通り、普通の食品だけで実行可能であり、特別なサプリメントは必要ありません。②低脂肪はむしろオススメしていません。糖質制限食でなおかつ低脂肪にすると低カロリーになる危険が増します。低カロリーは健康に悪影響がありますし、糖質と脂肪を減らすとタンパク質ばかり食べることになり、続けることが難しくなります。また、第4章でも説明したように脂肪が健康に良くないという昔の健康常識はすでに否定されています。糖質制限食を安全に実行するためには、低脂肪はやめたほうがよいと考えます。

Q8:ケトン食って何ですか?健康に良いのでしょうか。

A:普通の人は糖質制限食で十分です。
最近ケトン食が話題になっているようです。そもそもケトン食は小児のてんかんの治療食として始まったものです。その内容は、成分の重さの比率で、脂肪とその他の食材を3:1にします。
これはカロリー比でいうと脂肪が87%という、極端に脂肪の多い食事となります。
これが注目されている理由の1つは、この食事が、てんかんだけでなく前に述べたように、がんへの効果について研究が進みつつあることです。もう一つの理由は、スポーツへの効果で、ケトン体回路にしてケトン体が燃えやすくきちんとエネルギー源になりやすい体質になりたいとサッカーの長友佑都選手がコメントしたことから、スポーツに関心の高い人達が注目するようになりました。けれど、ケトン体を効率よくエネルギー源にする体質になるのなら、脂肪比率87%のケトン食をとる必要はありません。スーパー糖質制限食で十分です。実際に、長友選手の実践している食事も、本当の定義通りのケトン食というレベルではなく、むしろ糖質制限食と呼ぶべき内容のようです。

Q9:ケトン体って何?

A:ケトン体は、人のメインエネルギーです。
ケトン体とはわかりやすく言うと、体脂肪が体内で分解されてできる物質で、細胞のエネルギー源として日常的に使われているものです。
甘いものを食べると、糖質が分解されてブドウ糖になり人のエネルギー源になることを知っている人は多いと思いますが、実は糖質よりもむしろ脂質の方が人体を活動させているメインのエネルギー源であり、糖質はあくまでも補助にすぎません。

ところが現在の日本ではこのケトン体を単に「糖尿病ケトアシドーシス」という病気の原因物質に過ぎないと勘違いしている医師も珍しくなく、血中のケトン体濃度が少し高くなるとすぐに危険だと思い込むことがあります。しかし、ケトン体は人の体にとってごく一般的に存在していて、たとえ濃度が高くなってもインスリン作用がある程度確保されていれば、アシドーシスなど起こさず健康には何ら問題がないのです。
例えば2015年の宗田哲男医師の研究によると、胎児や新生児の体の中では、ケトン体は非常に高濃度であることが普通であることがわかってきました。つまり赤ちゃんたちはケトン体で育っていることがわかったのです。

Q10:ケトン食でガンは治るのでしょうか。

A:ここ数年非常に注目されていて、たくさんの研究が行われています。ケトン体のがんに対する効果は、かなり有望だと考えられており、著者も期待している一人です。もし将来がんだとわかったら、著者は、ケトン食を始めるつもりでいます。

著者は、すでに糖質制限食を2017年現在で14年間以上続けており、その間のがん細胞の発生や増殖を予防しているはずですが、がん細胞はCTなどの画像で発見できる5mmほどの大きさに成長するまで10〜20年かかると考えられているので、可能性はゼロではありません。
ケトン食は脂質が87%。糖質制限食は脂質は50〜60%なので、これをさらに徹底した食事と言えるでしょう。

Q11:定期健診では糖尿病予備軍は見つからないって本当ですか?どうやれば、早く予備軍を発見できますか?

A:糖尿病予備軍である境界型には2つのタイプがあります。
①食後だけある程度の高血糖があるタイプ②食後の血糖値は正常で、空腹時の血糖値が高いタイプ。

定期健診では、早朝の空腹時血糖値しか測らないので、後者の②のタイプしか発見できません。しかしむしろ多いのは前者の食後だけ高血糖のタイプです。

このタイプを発見するのに、一番簡単にできるのは、普通に米やパンなどの糖質を食事で食べて、その1時間後に血糖値を調べてもらう方法です。
さらにもっと簡単なのは、同じく米やパンなどの糖質を食べた1時間後に市販の検査キットで自分で尿糖を調べることです。もしも陽性だった場合、食後1時間の血糖値が180mg/dlを超えている可能性が高いので、、定期検診で大丈夫と言われても、①食後高血糖タイプの境界型である疑いがあります。早く糖質制限食を始めることをお勧めします。

Q12:スタチン剤で血糖値は上がる?

A:スタチン剤には糖尿病のリスクがあります。
血中のコレステロールを下げるスタチンという系統の薬があります。(薬の成分名の最後に○○スタチンとスタチンがつきますよ)これには血糖値を上昇させるという困った面があります。
例えば、医師がよく参照する「今日の治療薬2014」(南江堂刊)に、スタチン使用群で糖尿病の新規発症が多いことに関する記述があります。また、権威ある医学雑誌である「JAMA」にも2015年にコレステロールが下がるとスタチン剤の使用の有無に関係なく血糖値の上昇につながると示唆する論文が発表されました。
コレステロールは動脈硬化につながると思われがちですが、実は人体にとって不可欠な重要な物質です。細胞の原料でもあり、ホルモンの原料でもあります。このような人体に不可欠の物質であるコレステロールをむやみに減らす必要があるか、著者は疑問であると言っています。ましてやコレステロールを下げることで血糖値の上昇を招くのですから、少なくともスタチン剤で無理に下げる必要はないのではないでしょうか。著者はスタチン剤の使用は、家族性高コレステロール血症など特殊な病気の場合だけに限る方が良いと考えています。

その他、糖尿病薬SGLT2阻害剤についてなど関心のある方は是非本を参照してください。

次回は最後の章に移ります。

この記事を書いた人

なおこ

京都市内在住の薬剤師です。
仕事の中での気づき、想うこと、服薬ケア研究会での深い学び、糖質制限食などの食に関する学びや私なりの知見を発信しています。
好奇心旺盛、学ぶことが大好きなので、その他にもいろんなテーマで誰かのお役に立てそうな情報も発信中。